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自宅NOCオペレータの運用備忘録。

光波長多重通信とダークファイバの話 -ICTSC9-

 HOMENOCでは第9回ICTトラブルシューティングコンテスト(以下ICTSC9)に接続提供を行いました。ICTSCへの接続提供は毎回恒例になっているのですが、毎回何か新しい取り組みにチャレンジしようということで取り組んでいます。今回は「ダークファイバを用いた光波長多重通信とBGPフルルートの提供」を行いました。

 恐らく多くの方、特に学生さんにとって馴染みの無い光波長多重通信についてまとめてみたいと思います。なお、学生の方でも分かりやすいように初学者むけに分かりやすいように書いています。一部技術的には正確ではない部分もありますので、予めご了承の上ご覧ください。

1. ダークファイバ

 ダークファイバとは回線事業者(NTTなどのキャリア)が保有する光ファイバーのうち、未使用で余っている芯線のことを指します。未使用ですので「光が通っていない=暗い」というところからこの名前が付けられています。

 ダークファイバは、ユーザのビルから最寄りの回線事業者の局舎までの「加入光ファイバ」、回線事業者の局舎間の「中継光ファイバ」の2種類の区分があります。通信事業者によっても異なりますが、加入光ファイバは距離に関わらず3000円程、中継光ファイバは1kmで700円程の料金で利用でき、非常に安価に利用することができます。(通信キャリアの専用線サービスを利用すると10Gbpsの場合、距離が短くても毎月数十万円の費用が掛かります)

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 ダークファイバを利用する場合は、自分で網設計(どこの中継局を経由させるか)などの設計を行い、その区間でファイバを注文することが一般的です。注文してから利用開始までは数か月の納期が掛かります。また芯線の空きがない場合は、提供を拒否されることもあります。空きがない場合に芯線の増設を行ってくれるかどうかは回線事業者により様々です。

 一見便利に見えそうなダークファイバですが注意が必要な点もあります。通信キャリアが提供する専用線サービスが2点間の通信を保証し、障害時には故障を検知して復旧対応を行ってくれる通信サービスであるのに対し、ダークファイバは通信サービスではなく「光ファイバ芯線を物理的に貸し出すレンタルサービス」のようなものになります。(一定の基準はありますが)品質にバラつきがあり後述のWDM装置を使わないと通信が難しい芯線もありますし、障害時には顧客側で故障箇所を特定しなければ、回線事業者側は対応してくれないケースが殆どです。故障個所を特定して対応を依頼しても復旧まで数週間以上を要することもあります。

 故障個所の特定には光パルス試験機(OTDR)など、測定器も必要となるなど、運用には専門的な知識が必要になります。利用にはそれなりにリスクもあるので安価な専用線サービスとは思わず、慎重な検討が必要になります。

2. 光波長多重通信(WDM)

 光ファイバで通信を行う場合、1本(2芯)のファイバーを送信(TX)側と受信(RX)側に使い分けて1回線として通信を行います。では、ある拠点間に2回線が必要になった場合はどうでしょうか?当然ながら2本(4芯)のファイバーを用意する必要がありますね。しかし前述のダークファイバの本数を増やしていくにはコストが掛かりますし、注文すれば直ぐに用意できるものではなく数か月の納期が掛かるため急な利用には対応できません。

 WDMは複数の波長の光を多重化することで、1本(2芯)のファイバに複数の通信を通すことができる技術です。利用する機器にもよりますが、10~1000を超える通信を1本(2芯)のファイバに通すことができます。これを使えば、拠点間の回線が必要となる度にファイバを増やす必要はなく、光回線の物理的な敷設コストを抑えて安価に大量の回線を提供することが可能になります。

 WDMにはDWDMとCWDMという2種類のタイプが存在します。CWDMは1290nm~1610nmの波長帯を利用し、波長間隔が粗く(20 nm間隔程度)通常16波程度までの多重化に対応しています。DWDMは1531nm~1611nmのC-Band/L-Bandと言われる波長帯の光を利用し波長間隔が細かく(1 nm間隔程度)、最大1000波を超える波長を多重化できる機種も存在します。

 また、光ファイバの品質によっては長距離を伝送することで光の減衰が起こります。規格上は10Gbase-LRで10km、10Gbase-ERで40kmの伝送距離が規格上ありますが、どんなファイバでもその距離で使える訳ではなく、それぞれの規格で許容できる光レベルが決まっており、品質の悪いファイバでは伝送距離が短くなります。DWDMでは全ての波長の信号をまとめて大きく増幅する増幅器(光アンプ)を搭載したものも多く、通常のLRやERで伝送できない長距離やある程度品質の悪いファイバでも通信することが可能になります。

 今回のICTSC9の会場とHOMENOCの収容ルータのあるPOP52とは徒歩20分程度移動できる距離ですが、光ファイバの距離は我々の歩く直線に近い距離ではなく複数の局舎を経由しているため、10km程の距離があります。また、ファイバの品質が余りよくないため、LRやERでの通信が難しく、DWDMを利用しています。

3. 装置の構成

 では次に、HOMENOCの収容設備(POP52)からICTSC9会場まで通信する場合を例に取って、DWDM装置の構成について構成図の順にて説明します。

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3-1. WDMで利用する波長への変換

 HOMENOCの収容ルータはWDMのルータ側のポートに10GBase-LRで接続されています。10GBase-LRは1310nmの波長の光を利用しますので、これをWDMのチャンネルモジュールで波長をWDMで利用する波長に変換します。今回は1571nmの波長を利用していますが、この波長はWDM装置のソフトウエアで変更することができます。

3-2. Mux/Demux

 WDMで利用する波長に変換された信号は、Mux/Demux(波長合分波装置)といわれるモジュールに入力します。ここでは複数の波長の光を多重化し1本の光ファイバに入れる作業を行います。

3-3. ブースターアンプ

 合波した信号は送出する前に、ダークファイバの減衰に耐えられるよう、アンプを使って大きく増幅されます。光アンプはエルビウムドープ光ファイバアンプ(EDFA)と呼ばれる方式のものを利用しており、最大30db程度の増幅を行うことができます。この値はWDM装置のソフトウエアで設定することができ、ICTSC9ではダークファイバの品質に合わせて20db程度の増幅を行っています。増幅された信号はICTSC9の会場に向けてダークファイバへ送出されます。

3-4. プリアンプ

 POP52からICTSC会場に到達した信号は、ダークファイバの品質により大きく減衰しています。これを受信側でもアンプを用いて適切な強度の信号に増幅します。基本的には送出時のブースターアンプと行っていることは変わりませんが、大きな違いとして、「分散補償」を行っていることが挙げられます。1550nm帯を用いた光通信を行うと波長分散が生じ、光パルスの形状が歪みます。この光パルスの歪みを元に戻すための分散補償機能が搭載されています。プリアンプ側でも増幅値はWDM装置のソフトウエアで設定することができます。

3-5. Mux/Demux

 プリアンプからは多重化された光信号がでてきますので、これをそれぞれの波長に分離する作業を行います。3-2項の送信側と逆の動作になります。

3-6. ルータで利用する波長への変換

 Mux/Demuxから出てきた光信号は1571nmの波長ですので、これを10GBase-LRで利用できる1310nmの波長に変換します。こちらにつきましても3-1項のPOP52側(送信時)と逆の動作になります。

 以上簡単にHOMENOCの収容設備(POP52)からICTSC9会場までの通信の流れを説明しましたが、逆方向であるICTSC9会場からHOMENOCの収容設備(POP52)までの通信も全く同じ流れで行われています。

4. おわりに

 ネットワークエンジニアでも馴染みの余り無い技術かもしれませんが、我々が普段利用している通信サービスもWDMやダークファイバを利用しているものが多くありますので、興味を持ってみると面白いかもしれません。HOMENOCではこのような物理層の技術にも積極的に取り組んでいます。

 ICTSC9への接続にあたりダークファイバはさくらインターネット株式会社よりお借りいたしました。当団体の活動にご協力いただけましたことをこの場を借りてお礼申し上げます。