2020年4月からNTT東西のFTTHサービスの10Gbps対応版、「フレッツ光クロス」のサービスが開始されました。HOMENOCの堂島POPがサービスエリア内だったので早速申し込んでみました。5月末に無事開通したので気付いたことをレポートしたいと思います。
※この記事は2020年6月現在の情報ですので契約の際には必ず最新の情報をご自身でご確認ください。
1. サービスエリア
2020年6月時点でのサービスエリアは非常に少なく、東日本では東京都の一部地域のみが、西日本では大阪府大阪市と愛知県名古屋市の一部地域のみが対象になっています。意外だったのが東京都は都心部(いわゆる山手線内)を外して、外周部の特別区や調布市や三鷹市がサービスエリアとしてスタートしたこと。最初は法人需要より家庭向けの需要が多いと見込んで住宅地の多いエリアからスタートしたのでしょうか…。
提供エリア | フレッツ 光クロス | フレッツ光公式 | NTT東日本
サービス提供エリア|フレッツ 光クロス|フレッツ光公式|NTT西日本
2. ISP
2020年6月現在フレッツ光クロスに対応しているプロバイダは「ぷらら、ASAHIネット、BB.excite」の3社のみとなっています。今後徐々に増えてくると思われますが、選択肢が非常に少ないので注意が必要です。
BB.exciteは他の2社の倍近いの料金がするので早々に検討から除外、ぷららはISPと回線がセットのいわゆる「光コラボレーションモデル」の契約しか出来なさそうだったので、ISP単体で申し込めるASAHIネットを選択しました。
フレッツ 光クロス|プロバイダ・インターネット接続は【ASAHIネット】
3. PPPoEとひかり電話
フレッツ光クロスで対応するインターネット接続方式は「IPoE方式」のみとなります。PPPoE接続は利用できませんので、IPv4についてはDS-LiteやMAP-Eなどの方式となります。従って固定IPv4アドレスを利用してサーバー公開をしたいなどの用途には利用できません。
また、ひかり電話についても利用できません。PPPoE方式とひかり電話については将来的には対応するようですが、現時点では時期未定となっています。フレッツ網の仕様についてNTTから技術参考資料が公開されていますので、これを読めば利用の上で必要な技術的な情報は手に入るかと思います。
4. IPv6アドレスと終端機器
フレッツ光ネクストでは、ひかり電話なしの場合はRouterAdvertisementにより「/64」が、ひかり電話ありの場合はDHCPv6-PDにより「/56」が割り当てられます。しかしフレッツ光クロスの場合はDHCPv6-PD方式による「/56」の割当のみとなっています。
10Gbps(10GBase-T)に対応している(ワイヤーレートに近い性能を出せる)スイッチやルータでDHCPv6-PDに対応している機器は少ないので注意が必要です。CiscoであればCatalyst3750X/3850/4948シリーズ、JuniperであればQFX5100、SRX1500以上、MXシリーズなどでの動作を確認しました。(Juniper機器で安価なEX3000や2000シリーズは非対応)HOMENOCでは当面の間は10Gは2ポート程度あれば良いのでCatalyst3750Xを選択しました。なお、Catalyst3750Xを利用する場合は、IPServiceレベルのライセンスが必要になります。
Catalyst3750Xシリーズで10Gを利用するにはアップリンクモジュールが必要です。10Gの利用できるアップリンクモジュールには「C3KX-NM-10G(SFP+2ポート)」「C3KX-NM-10GT(メタル専用)」の2種類があります。公式には10GBase-Tは後者のみ対応ですが、前者のモジュールでも動作することを非公式ながら確認しました。SFP+2ポートのモジュールの方が中古市場で安価に手に入ります。SFP+はFS.COMから購入したものを利用しています。
Catalystの設定は以下のような設定をしています。Te1/1/2がフレッツ光クロスのONU接続ポート、Vlan901がフレッツに接続するSVIです。
なおNTT公式にはフレッツ光クロス対応レンタルルータとしてNECプラットフォームズ製の「XG-100NE」というブロードバンドルータが用意されています。推測ですがQualcommのIPQ8078あたりのSOCを搭載している機種だと思うので、スループット(特にショートパケット)は期待できないと思われます。
5. 回線終端装置
フレッツ光ネクストではSFPタイプの小型ONUが話題になりましたが、フレッツ光クロスでの提供は無く、箱型の回線終端装置「10G-EPON」が設置されることになります。フレッツ光ネクストよりも高さが若干高い構造になっています。
6. ASAHIネットについて
ASAHIネットは数少ないVNEの一社になっており、自社のIPv6アドレス 2405:6580::/29 の空間から/56が割り当てられます。IPv4接続については4over6のDS-Lite方式になります。DS-Liteのトンネル終端アドレス(AFTR)は公開されていないようで、ブロードバンドルータに自動的に配信されるようになっているです。従って、この配信の仕組みに対応しているルータ以外はDS-Liteを利用できなそうです。(現状は「XG-100NE」だけか…)
もっとも一度対応ルータを接続して、パケットをキャプチャすればAFTRのアドレスを調べることはでき、色々なルータを利用できそうですが、対応ルータ自体も持っていませんし、今回はIPv4インターネットを使う目的ではないので特にテストはしていません。
このエラー、放置していたらASAHIネットのサポートセンターから電話が掛かってきました。フレッツ網内の折り返し機能のみを利用し、IPv4インターネットは利用しない旨を伝えてエラー永久静観としてもらいました。(サポートの中の人は???な感じでしたが…)
7. 速度と東阪間の経路について
現在、HOMENOCの大阪拠点には10GBaseのインタフェースを利用できるPCやサーバは無く、1Gbpsでしかテストしていませんが、IPv6に対応しているFast.comやiNonius.netのスピードテストでは約1Gbpsは出ており、少なくとも一部のスピードテストで1Gbpsを下回るものでは無いようです。
東京のHOMENOCの別拠点(VNEはTransixを利用)まではASAHIネットのトランジット(AS2914/GIN)経由になるようです。NGNの東西間接続はインターネット経由になりますが、ASAHIネットとTransixのピアではなくトランジットを回ってしまっているのは残念なところです。
もっともAS2914/GINのバックボーンの品質は良いですし十分な帯域を用意しているでしょうから輻輳による通信影響についてはあまり心配はしていません。
8. フレッツ光クロスをオススメできるか?
テレワークの拡大などにより自宅の固定インターネット回線に対するニーズは高まっているようですが、大量のデータのアップロードやダウンロードが発生するような業務以外では、1Gbps以上の速度を必要とするケースは稀で、遅延とパケットロスの少ないそこそこの速度が出る回線の方が重要なのではないでしょうか。
現時点ではIPv4固定IPアドレス(PPPoE)の利用不可、ひかり電話の利用不可、ISPの選択肢が少ないなどのデメリットが多く、月額料金も1000円程上がるので、万人にオススメできるものでは無いと思います。それでも使ってみたいという方は是非利用してみてください。